才気煥発
「ねぇ、僕もう行ってもいいですか?」
「アレンーっ。付き合い悪いさ~」
なんだかやつれたような表情で訴えられて、オレはイヤイヤをする子供みたいに首を左右に振った。
ついでにアレンの団服の袖を掴むと、今度こそ盛大にアレンは顔を顰めた。
「惚気話を延々と聞かされるのって正直ちょっと面倒なんですけど」
「アレンの意地悪」
「あの、もう30分も聞くだけ聞いてるんですけど」
そう。アレンって優しいっていうかお人よしさ!
もうちっと普段からブラックオーラ出しとかんと、オレみたいなのに捕まったら逃げらんないよ?
「うんうんっ。だから、あともう10分くらいっ!」
知ってて、アレンを引き止めるオレも、オレだけど。
正直、黙って話を聞いてくれる相手って、そう居ないんさ。アレンって、結構貴重な存在!
「僕、口も挟まず適当に相槌を打つばっかりで…、ここに居る意味あるんですか?」
「あるって!」
「あーそうですか。でもハッキリ言って神田の話なんか聞きたくないんですけど」
「う…っ! あー、じゃあオレが話してるのはユウのことと思わないで、単にオレの好きな子ってことに」
「ラビが『ユウが! ユウが!』って言ってたら意味ないじゃないですか!」
アレンの声が悲痛だ。
だけど、オレだってユウのことを想うと、アレンにそんな風に言われるのはショックさ!
「だってユウが…!」
「ほら! またすぐそうやって…!!」
名前が咄嗟に口をついて出てしまうのは仕方ない。
『ユウ』って単語以上に、毎日繰り返している言葉なんてないくらいなのに。
軽くアレンに謝って苦笑を浮かべる。
そうすると、なんでかアレンは急に黙ってオレの話を聞いてくれる姿勢に入る。
ま、根っからのお人よしってヤツ?
「でも、本当は少し羨ましいです」
「ん? 何が?」
「そこまで夢中になれるものがあるラビが」
今度はアレンが苦笑した。
その目に僅かに滲んだ羨望の色に、こっちが恥ずかしくなって思わず俯く。
落ちた視界。変わりに頭にパッと浮かんだのは、ユウの顔。
「ユウのこと好きさ」
「はいはい。何度も聞いたから知ってますよ」
「ユウに夢中になる才能が、オレにあったってことかな」
「…えぇまぁその……いいんじゃないですか、そういうのも」
引きつったアレンと対照的に、オレは作らない笑顔でニコッと微笑む。
END
アレンが羨ましいと想ってるのは、あくまで「夢中になること」について。だからアレンは、神田のことを想って夢見る乙女系なスマイルを浮かべるラビにドン引きです。